ある元栃木の工業人.jp

電子工作、機械設計、ロボットなどのモノづくりから宇都宮まで色々 ※2021:画像消失につき、c.yimgからマイニング&整備中

工学系資格の個人的総評 / 電験三種 / 情報処理技術者 / 一陸技 / 一海通 / 技術士 / エンベデッドシステムスペシャリスト

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資格を取るのは良いことだと思う。 

インターネットで調べるよりも、専門知識を体系的に学べる。ただ専門書で読むよりも、学ぼうというモチベーションが生まれる。『試験日』という締め切りの存在は、人を本気にさせる。定期的に「新しいことを学ぶ姿勢」が呼び起こされ、より洗練されていく。おまけに、まともな資格であれば、称号と独占業務・名称がついてくる。 

純粋に自身のキャリアのために取得するのも悪くはない。けれど、幅広い分野に興味を持ち、取得を目指すことは、一種の教養となって身の回りをより面白くしてくれる。

さて、来年の春は何を取得しようか…。

 

 ・ ・ ・

 

そんなこんなで、高校時代から暇を見ては資格、主に工業・工学系の国家資格を取ってきたので、いくつか抜粋して、その所感なり備忘録なりをここにまとめておこうと思う。一部工学的ではないものがあるが、折角なので掲載する。一方、民間資格やニッチな技能資格、運転免許、学位とかは不毛なので掲載しない方針だ。

この知見が誰かの足しになったらラッキーである。

 

 


 

危険物取扱者(2010)

f:id:kazu_souri:20201230025237j:plain石油からニトログリセリンまで、社会で用いられるあらゆる可燃性、自己燃焼性、自己発火性の物質について取り扱いができる資格。

試験はとにかく記憶力勝負で、名前と物性と数量をひたすら記憶していく。難易度は低め。乙種であれば1~6類に分割されているので、乙4から始めて必要な部分だけ、計画的に取得することができる。発火点、融点、刺激臭、自己燃焼など、現場レベルの化学の用語、知識を学ぶこともできるので、全類取るのも悪くない選択だと思う。

一般的には、ビルメンテナンス業などの設備管理系の業務で必要とされるとのこと。また、石油系の範囲である乙4類は、ガソリンスタンドのアルバイトで役に立つことがあるため、大学入学前にでも取っておくといろいろ便利かもしれない。一方で、いかんせん特殊な物質についての物性と法律知識が殆どであるからか、工学系の知識としてはあまり役に立った記憶はない。

 

第二種電気工事士(2010)

f:id:kazu_souri:20201230025415j:plain高圧でない一般用電気工作物、つまり電気事業者の受電設備から人の生活空間までの電気設備を施工できる技能系の資格。具体的なイメージでは、ブレーカー、開閉器、コンセント(レセプタクル)などの施工に関わる。なお、第一種の取得には実務経験が必要であるが、取ると高圧設備やオリジナルの電気設備を取り扱えるようになる。

学科試験と技能試験がある。学科試験は法令や道具の名称などの実践的な選択問題が多く、理論系の計算問題は少なめである。技能試験は制限時間以内に、与えられた配線図面通りの回路網を作り終えるもの。予め線材や電気部材は用意されている。ただし道具は全て持ち込み。技能試験では、製作した回路が図面と一致しているか、施工方法が法律に照らして正しいか、などが問われる。具体的な施工方法のポイントは、被覆を剥く長さや余計な切り込み、電線の巻く方向など。

人類の近代文明は電気と共にある。求人も多く、この資格があればまぁ、食いっぱぐれることはない。手に職といえばこの資格と言ってよいだろう。サラリーマンとして電気工事屋さんに勤めるだけでなく、将来的に独立開業も夢ではない。

この資格を取るとある程度の技能が身につくので、大学生でも上手くアピールすれば簡単な電気工事のアルバイトを貰えることがある。学生のアルバイトとしては往々にして時給(というか単価)が高額なため、いろいろ美味しい。(もちろん責任も大きい。高度な施工内容は欲張らずに断りましょう。あとフリーランスとして業務委託にすると開業諸々の問題が出るので、アルバイトとして何かしら会社に所属しておくことがおすすめです。)

 

三級機械加工(普通旋盤作業)技能士(2011)

f:id:kazu_souri:20201230025240j:plain旋盤による機械加工の技能を認定する資格。厚労省が設置する技能士資格のひとつであり、バリバリ現場系のセンスが問われる資格である。

制限時間以内に与えられた図面に基づいて黒皮付き棒材を加工していく。段付き丸棒と、それと緩いはめあいの関係にある中空軸を切削し、その加工精度に基づいて合否が決まる。

自身の技能を証明できる満足感、「機械加工の技能士(テクニシャン)」を堂々と名乗れるようになるものの、それ以外にはあまりメリットが無い気がする。いまどき旋盤加工をバリバリ行う作業場ってあんまり無いですし。何気に材料費や学習コスト、検定費がバカ高いので、町工場のスペシャリストを目指す人か、物好き以外には取得の魅力は少ないと思う。

(個人的には、ただただ旋盤と戯れてるのが楽しかったのだけれど…)

 

三級電気機器組み立て(シーケンス制御)技能士(2011)

工場のFAなどで用いられるPLC制御に関する技能を認定する資格。

制限時間以内に与えられた動作を実現するラダープログラムを組み、実装する。旋盤加工よりかは合否判定基準が優しく、また学習コストも低いが、内容としては結構地味である。

PLCで使用されるテクニック、例えば自己保持とか論理和などが学べるので、生産技術系や電気屋さんには役に立つ内容かと思う。また、情報工学の観点からすると、PLCのラダープログラムはステートドリヴンなプログラム言語、あるいは現場からボトムアップされたハードウェア言語と呼べるものであって、その現場的パラダイムを持つプログラムの設計思想を学ぶこと自体は面白いし、多少なりとも組み込み技術にフィードバックできる余地はあると思う。

 

第三種電気主任技術者試験(2015)

f:id:kazu_souri:20201230025435j:plainいわゆる電験三種。電気設備の保安監督業務を行うための資格であり業務独占資格。ある程度の規模の設備を持つ者は、その保安監督者としてこの資格を有する者を必置しなければならなず、従って、この資格の需要は結構高め。電気工事士が電気設備の変更作業を行うのに対して、こちらは設備変更を含めたより大局的な電力設備について保安監督する、という違いがある。

試験は4科目あり、電気・電子に関する工学的な「理論」、発送電設備に関する「電力」、電動機やパワエレ・インバータに関する「機械」、法律に関する「法令」に分かれる。いずれもかなり高度な電気電子・機械工学的・物理学的な知識が広範に問われ、電気電子の学士レベルの知識を要する。そのため合格率は6~8%と、難関資格のひとつに数えられる。何気に「法令」が結構難しい(問題数が15問しかなく、正答率60%以上のため6問しか間違えられない)試験は午前と午後に2科目ずつ行い、1日で完了する。科目合格が認められており、3年間持ち越すことができるので、計画的に取得することが可能。この資格は理工系大学生であれば、2か月間の夏休みをフルに死ぬ気で活用することで取得できるレベル。社会人なら1~2年間計画的に勉強しないときついと思われる。

電験三種は難関でありながら比較的人気の高い資格であり、そのため書店には必ず数種類の電験三種のテキストが置いてある。個人的には、とにかく分厚いテキストを選ぶことをお勧めする。たとえば「これ一冊で」みたいな文言は避けた方が良い。一冊の本で纏められるほど、この資格の勉強範囲は少なくないし、簡単ではない。読む量は増えるものの、より素早く適切な理解をするのであれば、ぜひ分厚いテキストを選ばれたい。それはいずれ、電気に関する将来的な座右の書になると思う。

この資格は、電気・電子の基礎から発送電、機械設備の応用まで(言葉通り)丸ごと学ぶことができるため、電気分野の相当な、非常に意義のある知識を得ることができる。著者は機械・メカトロ系の専門なのだけれど、強電分野を理解している事のアドバンテージは実感としてかなりデカい。現代社会において、電気が使われていない設備や製品など殆ど存在していないので、電気以外の分野、例えば機械や情報を専門にしている人にも、ぜひ取得をお勧めしたい資格。

ちなみに合格証書は真っ白の厚紙ペラ1枚に「法律に基づいて交付する」的な文言と名前が書かれたものである。頑張った証としては、個人的にちと寂しいものがある…。

 

技術士補(機械)(2016)

f:id:kazu_souri:20201230042323j:plain技術者(エンジニア)としての能力を認定する技術士資格のひとつ。認定された者には『技術士(Professional Engineer)』の名称使用権が与えられる、名称独占資格。著者はまだ技術士補である。技術士補技術士を補佐する立場であり、数年間の経験の末に2次試験を受け、技術士となることができる。

実務経験と実績、そして知識が筆記試験や面接で総合的に問われ基準を満たした場合に合格となる。第一次試験と第二次試験があり、第一次では主に工学知識を問う筆記試験、例えば機械なら熱力、水力、材力、機械力学の基礎的な学力が問われる。第二次試験では、実務経験に基づいた小論文や面接が行われる。実際のところ、技術士のその根幹は「倫理」であり、技術者としての社会貢献、誠実さ、そういった部分のウェイトが大きい。そのため、専門知識だけで武装しても合格することは難しいといえる。

技術系の国家資格としては最高峰であるが、建築系の施工管理技術士以外では業務の独占が無いため、国内ではあまりメリットがない(技術士会に普及させる気があるのか、ちょっと疑問が残る)。一方で、海外でProfessional Engineerという肩書はかなり価値があるという。

少し脱線するが、日本ほど「エンジニア」という言葉が乱用されている国は無いと思われる。「Engineer」とは確固たる技術・知識・倫理感を有することの証明であり、その知識背景、すなわち学位や資格を持たずして本来名乗ってはいけない。それはいくつかの国では罰せられるし、多くの国では信用を失うことになる。外に居るマジモンのEngineerたちは、みな技術の研鑽義務と技術者の倫理規定に宣誓して「Engineer」を名乗っている(もちろんそうでない人も大勢いるが)。「工学学位なきエンジニア」「CS学位なきソフトウェアエンジニア」「博士学位なき教授」のあり方について、少し整理して考え直してみるべきではないだろうか。

閑話休題。この資格は世界に通用する嘘偽りない「Engineer」の資格なので、技術士・技術者を目指す人には、この資格の取得を考えてみると良いだろう。

 

第一級陸上無線技術士(2017)

f:id:kazu_souri:20201230025505j:plainいわゆる一陸技。陸上における無線設備の技術的操作を行うための資格。無線に関する従事者免許には、通信操作に関する通信士と技術操作に関する技師・技術士があるが、一陸技は技術操作に関する最上位の業務独占資格である。また、従前の技術士資格以外で唯一「技術士」の称号が得られる資格でもある。具体的なイメージでは、テレビ局や官公庁の通信設備の操作、電話のセルラー基地局の設置などに関わる。

試験は筆記のみであり、2日間で1日あたり2科目、計4科目に分かれている。電気・電子・半導体に関する「無線工学の基礎」、発受信設備の技術的理論と設備に関する「無線工学A」、アンテナの利得や電波伝搬理論に関する「無線工学B」、そして「法令」である。問われる内容は高度かつ広範であるが、過去問と類似する部分が多いため、理論を理解しなくとも解けてしまう部分が多い。また、計算を穴埋めする選択問題では正しい選択肢でないと矛盾する仕掛けが施されているなど、出題者の優しさが垣間見える。

電験三種ほど試験は難しくはないものの、テキストが過去問集くらいしかないため、非常に取っ付きにくいのが難点。例えば「無線局」「空中線電力」「スプリアス」「搬送波」「側帯波」「QPSK」などがさも常識のようにポンポン出てくるため、最初はかなり苦戦するだろう。インターネット上で有志が用語や機器に関する解説サイトを用意してくれているので、それらを随時参考にしていくとよい。

この資格を取ると、電波に関する知識と弱電アナログ回路をある程度網羅的に理解することができる。アンテナの電波伝搬理論、フレネルやマルチパス、フェージングの知識は、適切な無線運用に於いてとても役に立つと思う。また、発信回路に関する理論ではバイポーラトランジスタMOSFETによるスイッチング、増幅の理論を徹底的に学ぶので、アナログレイヤーの電気設計の知識を強化してくれるだろう。さらに、CDMA、TDMA、FDMA、QPSK、の考え方は、一般的なWifi、BT通信が持つ課題と脆弱性の理解に大いに寄与するはずだ。

実際のところ、この資格そのものは就職や転職で有利になる事はそうそう無いと言われている(社内で育成できるし、必要な人数がそもそも少ない)。とはいえ、昨今ではいわゆるIoT機器やGNSS搭載機器など、あらゆる装置において無線搭載が当たり前となってきており、そういう開発に携わる・興味がある方には、この資格の取得をお勧めしたい。なお、「第一級」を取る事の利点は、先に言った「技術士」名称が使えることのほか、後述する「第一級海上無線通信士」の免除が付いていることがある。

 

第三級海上無線通信士(2020)

f:id:kazu_souri:20201230025518j:plainいわゆる三海通。海上における無線通信の操作を行うための業務独占資格である。具体的なイメージでは、船舶間の通信(他船舶への危険、勧告、助言)や、遭難信号などの海事にまつわる知識と技能に関するものである。

この試験は筆記試験と実技試験に分かれており、筆記では、無線設備の技術に関する「無線工学」、「法規」、そして海事に関する「英語(リスニングあり)」、実技では通信操作に関する「電気通信術」がある。無線工学は一陸技で免除可能。法規は記憶力勝負。英語は海事に関するルールや船上での会話にまつわる筆記+リスニングである。TOEIC400~500程度あれば文法的には難しくないが、一方でvesselやstarboard、asternなどの独特な船舶英語が多く含まれるため、公式の英語テキストの英単語集を覚えておかないとキツイ。ちなみにリスニングのCDの声は、TOEICみたいなネイティブではなく日本人訛りが入ったものだった。

電気通信術は、フォネティックコードの書き取りと発話、そしてキー入力の3つの試験がある。キー入力は制限時間以内に渡された紙に書かれた内容を普通のパソコンのキーボードで入力していくもので、間違えても問題ないので寿司打気分でガシガシ打っていくと良い。確か40秒くらいで終わった記憶がある。フォネティックコードのCD音声の書き取りは案外冷静さと速度が求められるので、Youtubeの動画で3時間ぐらい練習しておくと楽(「U」と「V」の書き分け方なども整理しておく)。発話は、1人の試験官の前に着席し、渡された紙のランダムなローマ字の羅列を読み上げるもの。日ごろから英語をフォネティックコードで読むクセを身に着けておくと、そこまで苦労しないと思われる。なお、これは正誤に加えて「優雅さ」みたいな採点があるので、堂々とハッキリ格好よく発話すると良いだろう。

この資格は船舶の海事に関するものなので、実際のところ就職や転職に役に立つことはあまりないんじゃないかと思う。一方で、船舶用語や海事上の手続きが分かるので、船舶系のディザスター映画を見るときにいろいろ理解が深まるかもしれない(例えばタイタニック)。また、船舶に乗って(不幸にも)遭難したときには、もしかするとフォネティックコードと遭難信号に関する知識が(不幸にも)生きるかもしれない。

個人的な推しポイントなのだけれど、実は無線通信士・アマチュア無線の従事者免状は単体で国際的な身分証明書の要件を満たす珍しいものなのだ。身分証明として海外でパスポートの代わりに使うことができるため、いろいろ重宝するんじゃなかろうか。

 

第一級海上無線通信士(2020)

いわゆる一海通。海上における無線通信の操作を行うための資格のうち、最上位のものである。

試験内容は、「無線工学の基礎」「無線工学A」「無線工学B」「法令」「英語」「電気通信術」の6項目であり、勉強の範囲としては広範なものである。が、前者3つは一陸技により免除が可能であり、そして後者3つは三海通により免除可能である。つまり、一陸技と三海通を組み合わせることで、全科目免除として試験なしで取得することができる。

この資格は噂によれば、現代において本当に使い道が無いらしいのである。実際、日本における一海通の保持者の総計は1500人余りであり、数万人レベルの一陸技や三海通とは大きく差をあけられている。これは、船舶や港湾に設置する無線設備が高度化し、通信士が必要なくなったことが要因なのだとか。いま一海通を取る人の多くは従事者免状の蒐集愛好家、いわゆる「従免コレクター」が一陸技+三海通→一海通という黄金の方程式を行って合格しているものと思われる(?)。

ちなみに、全科目免除の手続きは少々面倒だった。まず、『「合格証明願用紙及び添付書類用紙」の送付のお願い』的な封書を無線協会に送付し、「全科目免除による合格証明願」と「まっさらな受験票」を送ってもらう。ここに一陸技と三海通の両方の「免状」の情報を記入し、無線協会に送り返す。すると一か月程度でwordで作ったようなA4のしょっぱい合格証明書が届くので、その合格番号を基にして総務省総合通信局へ普通の手続きで免状を申請する。だいたい1~2か月くらいかかる。

 

ITパスポート(2011)

f:id:kazu_souri:20201230025535j:plain通称、Iパス。情報処理技術を証明する経産省管轄のIPAが主催する資格のうち、最も入門にあたる資格。持っていれば「パソコンに詳しい人」ということが証明できるだろう。

試験内容は、情報処理技術に関する「テクノロジ」、プロジェクトマネジメントに関する「マネジメント」、そして経営戦略に関する「ストラテジ」の3つに大別され、それらを選択問題で問うものである。他のIPA主催の情報系資格と同様に、純粋な情報技術だけではなく、ビジネス系の経営戦略などの知識も問われるのが特徴。筆者は2011年の春に筆記で取得したが、2012年以降はCBT試験へ移行しているようだ。

ITパスポートは計算系の問題が極めて少なく、基本的に記憶力勝負といえる。普段からPCやプログラムを触っている人にとっては、一週間くらいでテキストをサラっと読むくらいで合格できるレベルだろう。言い換えれば、それだけ簡単(というかPCネイティヴ世代なら半分くらいは常識レベル)な内容であるため、情報系の就職や転職に有利に働くようなものではないと思う。IPAの資格区分としても「ITを利活用する者」という立ち位置である。よほど履歴書の資格爛を埋めたい場合には…まぁ…という感じ。

 

基本情報処理技術者(2016)

f:id:kazu_souri:20201230025546j:plain通称、FE。経産省管轄のIPAが主催する情報系資格のうち、情報処理技術者として初級にあたる資格。IパスやAPに比べてよりテクニカルで、ソフトウェアエンジニアというよりコーダー・プログラマ寄りの出題内容である。

試験内容は、基本知識を広く問う4択問題の午前と、アルゴリズムを問う多肢選択問題の午後に分かれる。

午前は、情報処理技術に関する「テクノロジ」、プロジェクトマネジメントに関する「マネジメント」、そして経営戦略に関する「ストラテジ」の3つの分野について出題され、2時間半のうちに80問解く必要がある。出題範囲は広範であり、確率統計的な理論系の出題も多く、午前問題はどちらかといえば記憶勝負となる。分厚いテキストをよく読み込み、過去問から計算問題に十分に慣れておく必要がある。個人的には、横文字や省略した英文字、例えば「AES」「DFD」「PPPoE」「NAT」「ROI」などが非常に多く、分野と無関係にごちゃまぜに出題されるので整理するのが大変だった記憶がある。

午後はより実践的なアルゴリズムとプログラミングについて問われる。全て選択肢問題であるが、その内容は筆記と同等といえる。むしろ引っ掛け選択肢があるぶんタチが悪いだろう。内容は13個くらいの必答問題と選択問題から7問を選択し、それぞれの4つほどの設問を回答する。問題の出題形式は、開発しているシステムの現況やトラブルに関するいくつかの説明文や資料が設問で提示され、それに対して妥当なプログラムやアルゴリズム、システムの状態、今後の方針などを答えるものである。回答に必要な情報は問題文で殆ど示されるものの、提示された沢山の資料の中に散りばめられていたり、その作業風景をメタに想像できないと妥当な選択を導くことが難しい。従って、その方面の経験がまっさらな人は、午後問題が鬼門になるはずだ。ちなみに選択問題ではCやJAVACOBOLなどから選択できるのだけど、受験者が多いシンプルなC言語の方が問題の難易度が高いらしい。

IPAの区分のうち、FEは下から2番目である。しかしながら、プログラムやアルゴリズム、計算問題が多く出題され、難易度としては程々あると思う。特にその道の経験が無い人にとっては、午後問題の通過が難関資格ばりになる可能性がある(まぁ、そういう人向けの資格ではないのだけど)。学生で経験があれば、一週間フルコミットすれば取れるレベルである。

この資格は情報処理界隈の一般常識を広範に学ぶことができる。技術レベルとしてはそこまで高度なものは含まれてはいないが、カリキュラム的に学習してない野良プログラマにとっては自身の経験的な知識を言語化、体系化することに有利に働くだろう。また、ネットワークやプロトコル、データベース、トランザクション技術を体系的に学べるため、オンラインシステムの開発や屋内ネットワーク構築の際には色々と役に立つはずだ。個人的には、マネジメント系の知識、整理・図化技術が(情報処理とは無関係な)プロジェクトの管理に非常に役に立っていると感じている。情報系として、第一にお勧めしたい資格である。

 

応用情報技術者(2019)

f:id:kazu_souri:20201230025557j:plain通称、AP。情報処理技術を証明する経産省管轄のIPAが主催する資格のうち、情報処理技術者として中級にあたる資格。FEに比べて、よりゼネラリスト向けの資格と云われる。

こちらも午前と午後に分かれる。午前で問われる知識としてはFEの分野とほとんど被るが、その深さ方向の範囲が1.5倍くらいのイメージである。とにかく記憶勝負。午後はFEとは異なり、記述式問題が加わる。こちらもいくつかの資料が提示され、それに対する妥当な答えを記述するものであるが、FEに比べてより上位な、要件定義レベルの問題にフォーカスされている。つまり、プロジェクトや経営の現況、解決したい問題が提示され、それと対話的に分析・解決していく解答形式をとる。FEと同様、資料に答えが含まれていることが多いが、その文章量や資料が多いため読解力が試される。

IPAの区分のうち、APは下から3番目であるものの、プログラミング問題を避けて解答できるため、その道の経験が少ない人にとってはFEより取得しやすいという。個人的にはAPの内容はFEと遜色ないイメージなので、そこまでアドバンテージのある資格ではないと思っている。が、APを取得すると高度資格の午前1試験が免除になるため、それ目的で取得するのはアリだろう。

余談であるが、情報処理試験は全般に倫理問題が存在しない。と同時に、倫理要綱とその順守義務も無い。これが意味することは、この試験は合格者の技術者倫理(Engineering Ethics)を保証できないということである。これは「技術者」を冠する資格としてはちょっとマズいんじゃないかと筆者は考えている。IEEE-CSやINCOSEではちゃんと規定されているのだから、IPAも少し考えてみるべきではないだろうか。

 

エンベデッドシステムスペシャリスト(2020)

f:id:kazu_souri:20201230025612j:plain通称、ES。IPAが主催する情報系資格のうち、情報処理技術者として最上級にあたる高度資格。マイコンやIoTシステムなどの組み込み技術に関する専門知識を問うものである。国内の組み込みに関する資格としては最高峰といわれている。

ESの高度試験は4つの試験科目で構成されており、全般的な情報処理知識を問う「午前1」、組み込みの専門知識を問う「午前2」、組み込み設計開発に関する中規模文章題の「午後1」、そして大規模文章題の「午後2」である。科目合格は無く、すべての問題において正答率60%を越えなければならない。

午前1は50分30問の4択問題。ここだけ総合的な情報処理知識を問うものであるため、何気に対策するのが面倒である。APや他の高度試験により免除することができるため、計画的に資格を取得しておくのがおすすめだ。

午前2は40分25問の4択問題。殆どがテクノロジ系の問題であり、組み込み技術に関する専門知識が問われる。この試験科目に関しては、ES用のテキストで唯一対策が可能だ(言い換えれば、これ以降のES科目に有効な参考書やテキストは存在しない)。40分あるが、ESを取ろうと思う人にとっては難しくない内容である。対策しておけばだいたい20分くらいで解答を終えることができるはずだ。

午後1は90分で3つの選択問題から2つを記述式で解答する。各問題には3つ程の設問があり、各設問には2~5つ程の小問がある。問題では組込みシステムで解決しようとしている課題とその要件、開発システム、トラブルについて解説と資料が提供され、それに対する妥当な回答をするものである。毎年出題テーマが異なるため、自分の組み込みの得意分野が出題されるとは限らない。その性質上、試験対策をするのは容易ではないものの、ある程度の組み込み技術の経験があれば、提供された情報から答えを導くことは難しくないと思う。計算問題も、適切に題意を理解できれば簡単な四則計算で解ける。ただし一番の難点は、この問題文がおよそ5,6ページに亘るということだろう。専門知識だけでなく、読解力、理解力、記憶力、そしてそれらの速度が求められる。90分でも結構ギリギリなはずだ。

午後2は120分で2つの選択問題から1つを記述式で回答する。各問題には3つの設問があり、各設問には3~5つ程の小問がある。問題数は少ないものの、その時間から分かるように、問題文と資料が膨大である。およそ8~10ページ近い解説と資料があり、それらを統合して設問に答えなければならない。何なら、設問それぞれにも1ページに亘る文章が置かれている場合もある。いわば、午後1の強化版である。答えに繋がる情報が提供されていない場合もあり、例えば「このシステムのセキュリティ上の問題は何か」といった経験や予測から答えさせる問題もある。せめてもの対策は、速読を身に着けることかもしれない。

以上の様に、この試験はとにかく組み込み経験と総合的な情報知識がモノを言う内容であり、資格コレクター的な目的や、履歴書の資格欄を埋めたいがために取得するにはいささか向いていないと思う。その合格率も15%程度を推移している。FEやAPを取得した人が受けてその程度であるから、準難関資格と呼ぶに相応しいだろう。ちなみにES試験は高度試験のうちで最も人気がないようだ。筆者の場合、コロナ禍の10月試験で合格したせいもあるが、県内で唯一のES合格者であった。

最初に述べたように、この資格は国内の組み込みに関する資格としては最高峰と言われている。組み込み系への就職や転職には有利になると思われる。取得者の平均が30台半ばらしいので、若い内に取っておくとアドバンテージになるだろう。学習の観点で見ると、この資格は具体的な組み込み技術を含んでいないため、組み込み大好き人間にはあまり魅力的ではないかもしれない。一方で、広範な組み込み技術と知識を体系的に学ぶことができるため、趣味の野良組み込みメイカーやエンジニアにとっては自身の経験的な知識を言語化、体系化することに有利に働くだろう。組み込み技術を愛好、仕事とする人には、そのスキルの証としてぜひ取得をお勧めしたい資格だ。

 

測量士補(2019)

f:id:kazu_souri:20201230025625j:plain測地測量を行うための国土地理院が主宰する資格であり、業務独占資格測量士測量士補の試験区分があるが、実務経験がなくとも試験により測量士/士補となることができる。筆者は測量士補であるが、内容的に測量士でもいけたなぁなどと思っている。

測量士補の試験は28問の4択問題である。測量用語、測量機器の操作方法、面積や距離の計算問題、GIS、地形図読み取りなどが問われる。内容としては工業高校の土木科の学生が解ける内容なので、大学生や社会人なら2~3日かけてテキストを一読する程度で十分だろう。一方、トータルステーションなどの測量機器の操作方法といった、経験がないと難しい問題もあるので注意されたい。これはネットやyoutubeで調べて身に着けるとよい。ちなみに、測量士の場合は午後に記述問題が追加され、読解力と理解力が試される。とはいえ、GISに関わる趣味や仕事をしていれば、ある程度推測で解ける内容に思う。

この資格は測量技術やGISGNSSGPS)に関する知識をある程度体系的に学ぶことができる。地形図やGoogle Earthのような3D-GISに興味がある人、特に街歩きや巡検が好きな人にとっては、それらをより面白くしてくれるだろう。また、GPSや点群による空間生成は、近年のドローンやロボット、自動運転システムのLiDAR(ToF)+SLAM技術に通じるものがある。筆者はRTKGPSを使用したcmオーダの位置測位システムを構築する際に、GPSジオイドなどの知識がとても役に立った記憶がある。学習コストが低いため、その方面に興味があるなら取得するのも悪くない資格だ。

ちなみに、測量士測量士補は登録資格である。すなわち、試験に合格することは「測量士/士補として登録する資格を得る」ことであり、合格だけで測量士/士補を名乗ってはいけないことに留意されたい。

(個人的には、受験願書を県庁で手に入れるのが一番面倒だったなぁ…)

 

宅地建物取引士(2019)

f:id:kazu_souri:20201230025635j:plainいわゆる、宅建士。不動産取引業を営むための国交省所管の資格であり、業務独占資格。不動産の売り手と買い手を仲介する業務に於いて必置とされる資格である。一方で、不動産の販売や購入、運営や貸借などには関係しない。一般に不動産は高額かつ権利関係が複雑な売買契約であるため、明確な説明責任を担保するためにこの資格が置かれている。具体的なイメージとしては、不動産屋で賃貸・売買契約を説明する人が宅建士である。

試験は2時間50問の4択問題である。明確な分野は定められていないが、多くのテキストでは、一般的な法律上の権利に関する「民法」、宅建士や宅建業務に関する「宅建業法」、土地計画や建築基準法などの「土地利用に関する法令」、税金や景表法などの「その他法令」のように分けられている。科目合格は無い。これが示すように、宅建士試験の出題範囲は非常に広範である。また、法律関係であるから殆ど記憶勝負といってよい。しかも民法判例主義、すなわち過去の裁判の結果で形成されるものであるから、どうしてもその内容に体系的な根拠が乏しかったりする。さらに、「第三者」「瑕疵」「善意」「悪意」「対抗」といった法理学的用語や、「許可」「届出」「指示」「勧告」などの行政用語の意味するところ、すなわち「解釈」を会得しなければならない。

科学的・工学的根拠に基づく資格とは異なり、この資格は人間の感覚的・情緒的、あるいは歴史的根拠に基づく内容が多分に含まれている。従って、理工学系の人はテキストをしっかり読み込み、『そういう世界観』に慣れることが重要である。言い換えれば、「常識的に考えて妥当な選択肢」を選ぶ無垢な感性を磨くことが近道である。大学生なら2か月間の夏休みを使って死ぬ気で勉強すれば合格するレベルである。社会人なら1年くらいの計画的な勉強が必要かもしれない。

ちなみに、この宅建士の合格率は14~16%の間で調整される。すなわち合格率一定主義であり、その年の難易度によって31~38点あたりで合格点が変動する(このような手法は弁理士行政書士など、他の行政系資格で多く見られる)。そのため、毎年10月末から11月にかけてSNS上では宅建士試験の苛烈な合格点予想合戦が行われている。宅建士講座や専門学校が予想合格点を発表する度に、受験者の安堵と絶望が対生成されるダイナミックな様は一見に値する。ちなみに筆者はボーダラインのど真ん中だったもんで、だいぶ狼狽させられたものである。まぁ結果オーライであったが…。

この資格は不動産業の必置資格であり、毎年20万人が受験する行政系では非常に人気のある資格である。不動産業へ就職・転職するのに役に立つと思われる。また、将来的な独立も視野に入れる人が多いそうだ。工学的な知識とは全く相乗効果が無いが、普段の生活における権利や、不動産に関する貸借、売買についての幅広い知識を得ることができる。例えば、賃借している部屋のエアコンは誰が修理すべきか?隣の部屋の騒音を収めるべき責任者は?盗まれた時計が古物商で販売されていたら取り返せるか?、宅建士を取得した頃には、こういった問題の答えを導けるだろう。一方で、もし街づくりや再開発に興味があったり、不動産の購入を考えているのであれば、都市計画法建築基準法、税法やローンに関する知識は強力な武器になるはずだ。人生のライフハックとして、個人的には万人にこの資格の取得をお勧めしたい。

ちなみに、宅建士は登録資格である。すなわち、試験に合格することは「宅建士として登録する資格を得る」ことであり、合格だけで宅建士を名乗ってはいけないことに留意されたい。

 

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